高倉


健さん主演の映画「あなたへ」を観て、健さんがかぶっていた帽子によく似た前つばの長い帽子を買った。それをかぶって東京在住の娘に会いに行ったら

「そのダサイ帽子、どうしたの?」

と問うから

「健さんに似てないか、久しぶりに健さんの雄姿を観て真似てみたんだ」

と言うと

「バカねぇ、あの映画は地方のおじさんの役でしょう、ここは東京よ」

と抜かした。

健さんの大ファンだ。

「網走番外地」や「幸福の黄色いハンカチ」など観た高倉作品は数知れない。寡黙でいながら圧倒的な存在感、周りを圧倒する迫力、背が高くシュとしたかっこいいスタイルと喧嘩の強そうな苦み走った顔、いずれも私とは対極にいる。

「あんたほど貫禄や迫力のない人もめずらしい」と言われたことのある私にとっての健さん映画は常に私の憧れであり私の心を揺さぶるのだ。

映画「あなたへ」は、富山刑務所の木工指導技官倉島(高倉健)が、最愛の妻(田中祐子)を53歳で亡くし、その妻が2枚の絵手紙を遺言として残しており、1枚には「遺骨は故郷の海に散骨してほしい」と記されており、もう一枚は彼女の生まれ故郷である長崎の平戸市の郵便局留めで、一定期限内でしか受け取れないという。倉島は妻の真意を知るため、手作りで改良したキャンピングカーを駆って富山から妻の故郷長崎へと向かう1200キロのロードムービーだった。

向かう途中にさまざまの人、さまざまな人生と出合い、そして別れがあり、それぞれの夫婦愛のあり方を描写する映画だった。

この映画の最大のねらいは、妻が散骨して欲しいというその真意であろうが、「さようなら」一言の絵はがきでは推し量かりかねた。おそらく妻の優しい心根からは、散骨の後は、私を引きずらないで今後貴方の自由に暮らしてと言うメッセージではなかったかと思う。

また折角刑務官を定年になり再就職の自分の技術を活かした木工指導技官の職に恵まれながら、最後に退職届を投函する場面があるのだが、生活困窮に陥った佐藤浩市扮するイカ販売員が小さい娘と妻のために保険金で食っていけるように自から遭難し、身を潜めて生活するのを見逃したためだなと降旗康男監督の意図が読めた気がした。

宮沢賢治の歌曲「星めぐりの歌」のやさしいメロディが何時までも耳に残る映画だった。

健さんの背中からは滋味と優しさにあふれ、哀愁が滲んでいた。

いいなぁ健さん!

しかし今回の映画では64歳から65歳ぐらいの役どころだが、健さんの80歳を超えた身体にはどことなく不自由そうで、よろよろと歩き往年の迫力は消え失せていた。この映画が健さん主演の映画では最後になるかもしれないなぁと思った。

健さんと田中裕子の演ずる夫婦は愛情にあふれている。映画は夫婦の絆の美しさを描写する感動的なものだったが、現実は綾小路きみまろの “あれから40年” が我が夫婦にはよく合っている。

彼の漫談でこう言うのがある

「新婚当時貴方の前では、心ときめいてドキドキしていた。あれから40年、そばに来るだけで不整脈」

我が夫婦も40年になる。ウチの妻は毎日キレていて、私は叱られてばかりいる。先日も有馬への日帰り旅行中、観光バスの座席で

「貴方首から何ぶら下げてるの」

「カメラ、朝出る時から首に掛けていただろう」

「アホちゃうん、日帰り旅行に そんな重たいカメラを持ってくるなんて」

「お前が昨晩大きいのを持って行ったらと言ったので、わざわざ大きいカメラを充電して持ってきたんだ」

「私そんな事一言も言っていません、こんな旅行には小さなデジタルカメラがに荷にならなくて良いことが分からないの」

一段と声を荒げる、観光バスは満席で周りは団体のお婆さん方がよもやま話で花を咲かせ、前の席の感じの良い夫婦を褒めたりもしている

「私が大きい方と言ったのはバッグのことなんだから、もともとこんな重たくて大きいカメラは大嫌いなんやけん」

と指を指して、それこそゴキブリを足で踏み殺すような言い方で私をなじった。わたしはさすがに恥ずかしくて沈黙した。ウチの妻は、こういう行為が、行儀が悪く、恥知らずの見苦しい行為であることに気がつかないから公衆の面前でもあからさまに亭主を怒鳴るのだ。

しかし、健さんが、映画の封切り前にNHKで番組に出演していて、今までのイメージとはかけ離れた素顔があった。そこには雄弁で社交的な一面を見せており、人生の終盤を独身で通し、強い“男らしさと”まっすぐで実直な人生を貫きながら、寡黙と不器用さを装う姿が浮き堀になっていて、そこに一抹の寂しさが感じられた。

この姿を観ていて、大スターと比べるべくもないが、健さんとは10歳以上年下の私だが、年老いて体形も崩れ、体調も崩れ、目鼻立ちも崩れ、毎日ピーピーとヒステリを起こす古女房と、一緒に暮らせているだけでも、やはりそれなりに幸せを感じるべきではないのかと無理矢理納得するのである。

    

(忠)


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