洗う〜の?


 便器が故障した。

 便器に座ると決まって便座に虫がいて尻を噛むような不快感に襲われた。それが電気系統の故障により便座に電流が流れ尻を刺激しているのだと判るまで時間が掛かった。

 はじめのうち妻は「貴方の皮膚がおかしいんじゃないの?」と言っていたが、妻も同じような感覚にとらわれるようになりメーカーに電話した。メーカーが修理に来て、便器が漏電している、アース工事もできていないし、設置して7年になるので修理は難しく、この際新しいのに取り替えたらどうかと勧められた。妻が漏電しているなんて火事になったら大変だから新しいのに買い換えようと言い。メーカーと交渉を始めた。メーカーから派遣されてやってきたのは、しっかりした感じの良い女性の一級建築士でリフォーム責任者でもあり、この人と接触した妻は便器の買い換えどころかトイレ自体の改装まですることを独断で決めて、見積書と設計図を持ってこらした。タイル壁をおしゃれな壁で覆い、手洗いも別になり、手すりをつけ、床はバリアフリーになっていた。見積金額は50万円を超えていた。私は渋々契約した。間寛平がテレビで宣伝していた某大手電機メーカーのトイレで自動で掃除する機能を持ったアラウーノと名付けられた最新の便器が取り付けられた。たまたま工事の完成時にいた孫が「おトイレで顔を洗ってもいい?」と許可を求めに来たくらいピカピカになり、妻も掃除が便利になったと毎日上機嫌になった。

 

 ところがトイレが新しくなると妻は、あろうことか男性の私に小便の時も座って用を足すように強制したのである。確かに最近は小便の出が悪く一旦出した後、 ( ) まうと見せかけて、またさっと引っぱりだして用を足すと残りの数滴がたわいもなく便器に落ちるという籠絡なテクニックを駆使して難を逃れることが多くなってきていた。しかし不肖の息子もそのうち私の手を読むようになり、忙しいときにそうそうはかまってもいられず、しばしば下着を濡らした。それが座ってするようになって窮屈なところから引っ張り出す手間が省けてそういうことがなくなったと感じていたら、最近妻が血相を変えて私の所へとんできて、トイレがおしっこで水浸しになっている、これは貴方が横に飛ばしたものだと叱責罵倒した。私には全く身に覚えのないことだった。私ではないと言うと、この家には私と貴方しか居ないのだから貴方に決まっていると言う。それならお前がやったんじゃないかと言うと益々逆上した。未だに原因は不明である。

 癌を患った私はその癌が転移してないか見るため毎年PET検査を受けているが、先日の検査で、癌の転移は見られないものの、膀胱の一部に腫瘍が見られるとの検査結果が出て早速、徳大の呼吸器外科から泌尿器科へ回され精密検査を行った。下半身をカーテンで仕切り屈辱的な格好でベットに仰向けになり内視鏡を膀胱まで入れて検査した。あんな小さい穴からカメラを入れて膀胱内を見るなんてと恐怖におののいた。看護師が「痛くもないしどうってことないからね。」と耳元で囁いてくれた。簡単な麻酔の後実行されたが、カーテンに仕切られているので、どのように突っ込んでいるのかは分からないが、ジワジワと内視鏡が入っていくのが感じられて、痛みは少ないもののその不快感は半端ではなかった。幸い異常はなくPETが尿を誤って腫瘍のように撮し、判断したのだろうとのことで難を免れた。

 

 しかし、あの新しいトイレの尿浸しは何だったんだろうと今でも思う。もしかして私が寝ぼけて立って用を足し尿を振りまいたなら、これはほとんど認知症ではないかと本当に歳はとりたくないものだと思うのである。

 

(忠)

 


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