普段はアンテナを張って生活していなくて、のんべんだらりと暮らしているので、このエッセイの原稿締め切り日が迫ってくると、落ち着いていられず焦ってくる。古希を迎える歳ともなれば、新しい出会いといったこともなく、世間も次第に狭くなって、書こうと思っても話題がない。さりとて過去を振り返っても、もう思いだしただけでワァーと声を上げて打ち消したいような恥ずかしいことや、三流のままで温々と過ごしてきた人生に自分の人生が如何に薄っぺらで深みを欠いたものだったか、悔恨と懺悔に浸るざる得ない。何か苦し紛れに絞り出す他はない。最近身の回りに起こったことで?そうだ!あれしかない。

 

 先日、山田洋次監督の映画「東京家族」をテレビで観た。共感して感動した。歳をとるとあちこちの線がゆるんできて涙した。物語は、瀬戸内海の小島に暮らす平山周一(橋爪 功)と妻のとみこ(吉行和子)の老夫婦が東京にいる長男、長女、次男に会いに行き、家族が久しぶりに顔を合わせる。最初は互いを思いやるが、のんびりした生活を送ってきた両親と、都会で生きる子供達とでは生活のリズムが違いすぎて次第に溝ができていく。それぞれの子供達の家を訪ねるが、つれない子供達の態度に仕方ないと思いながらも寂しさを抱く父と母。そんな折り、妻のとみこが倒れ急逝しまう。結局一番優しかったのは血の繋がらない、次男の婚約者であった。「あんたはいい人じゃなぁ、本当にいい人じゃ、母さんもそういうとった。」の台詞のところで号泣した。この間、夫の転勤で東京で暮らしている長女に孫(10ヶ月)に会いに行くと電話したら、今引っ越ししたばかりだし、子供に手が掛かっているからもう少し後にしてと断られたばかりだった。

 

 山田監督の大ファンで、ほとんどの映画を観ている。「男はつらいよ」寅さんシリーズ、「幸せの黄色いハンカチ」「おとうと」等々。

 山田監督によると「映画館(こや)がはねて、星空を仰ぎながら家路につく観客の胸が幸福な気分で包まれ、さっき観た場面を思い返して、思わず一人笑いをしてしまうような」そんな思いで「男はつらいよ」シリーズを作ったとエッセイに書いてあったが、まさに、この映画は山田作品だと思った。しかしこの映画が、日本映画界の巨匠・小津安二郎監督が昭和28年に製作した「東京物語」がモチーフになっているのを知り、翌日インターネットで東京物語を探していたら、映画が観られることがわかった。無料であの名作が観られるなんて信じられなかったのだけど、観られたので2度も観た。この作品はつい最近2012年世界の映画監督が選ぶ映画最も優れた作品として1位になった映画だ。そりゃもう更に感動した。そして家族の絆、夫婦と子供、老いと死、人間の一生といったことを考えさせられた。自分の過ごしてきた人生と重ね合わせ、笠知衆演じる父が妻を演じる東山千恵子に「よくいやぁきりがないが、ええほうじゃよ」「えっぽどええほうでさぁ、私ら幸せでさぁ」「そうじゃなぁ、幸せな方じゃのう」と言う台詞は、心にしみた。この作品と山田作品の内容はほぼ同じだが、山田作品では現代風にリメイクされていて第2次世界大戦が東日本大震災に置き換えられたり、あのいい人が戦争未亡人の次男の嫁から、次男の婚約者に変わっていた。この2つの作品を観て時代の流れを感じた。それでいて核家族化と高齢化社会が昭和28年当時からあったことを思い知った。

 

 戦後日本は経済の成長と拡大を目指して突き進んできた。高度経済成長を見込めなくなってからもこの道をあきらめきれずに、無理を重ねた。その結果多くの矛盾や社会問題が現れた。成長が鈍ると国債を乱発し多額の財政赤字を生んだ。地域や家族など共同体が壊されていった。サザエさんの漫画が売れ出した当時は3世代が同居するのは普通の家庭だった。それが核家族化や高齢化社会が生じ地域間格差を生んだ。人口変化のグラフを見ても戦後7,000万だった人口は一気に増加し平成16年の1億2,800万人のピークから減少に転じた。徳島県では平成9年の83万3,000人から15年連続で減り続け、平成24年では76万8,658人にまで減ってしまった。現在の過疎化、少子化、晩婚化、孤独死、非雇用、破綻寸前の社会保障などを考えると映画の中で周一(橋爪 功)が「どっかでまちごうてしもたんや、この国は。もうやり直しはきかんのかなぁ」という溜息が現実味を帯びてくる。貧乏は嫌だけど経済成長だけでも人間は満たされない。経済と離れた新しい形の幸せがあっても良いのじゃないかと思ったりする。我が家も娘二人を嫁にやりそれぞれ県外で生活をし、老夫婦2人だけの生活となった。命の残量ももうわずかでしかないが、毎日何か楽しいことを探して、廃車寸前のくたびれた中古車ではなく、かっこいいクラシックカーでいたいと思うのである。

(忠)

 


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