雑 感

ある高校野球部監督の悩み


 某高校は甲子園出場が決まり、毎日激しい練習を行っていた。
 今まで、もう少しのところで敗れ一回戦で敗退していた。
 大会の日が近づき、人選をしレギュラーの背番号を各選手にわたす時がきた。
 人選に対し監督は迷っていた。
 二年生ながら体もよく、長打力がありしかもチャンスに強い選手がいた。
 しかし難点もあった。確実性はあまりなく好不調の波があり、なににもまして普段の練習はいくら叱ってもチャランポランであった。
 一方三年生はまじめで、現在まで一日たりとも休むことなく地道に努力しひたむきに野球に取り組み、4打数1安打は確実なレギュラーがいた。
 この2人は他の選手のバランスで同じポジションしかもっていけない事情があった。
 監督は、悩んだあげく、甲子園で1勝をあげるには3年生のまじめな選手より、実力は落ちてもチャンスに強く、長打力のある2年生でなければ勝てないという決断を下した。
 そこで監督は心を鬼にして、レギュラーの背番号のついたユニホームを2年生に渡した。“「俺はなんと血も涙もない男なんだ」と自分を責めた。”
 しかし、事態は意外と良い雰囲気に包まれていた。
 三年生は、選ばれた二年生を笑顔で肩をたたきながら「よかったなあ」と励ましている。落胆の色は見えない。
 その日の深夜、合宿先の監督の隣の部屋からふすま越しに、声をおし殺したしのび泣きが聞こえてきた。
 その声は紛れもなく、努力家でまじめな三年生であった。
監督は眠れない夜を過ごすことになった。

(忠)