雑 感

玉 造 温 泉


 そごうで美脚パンツとシャツを買う。旅行に出る前に衣服をそろえるのは我が家の習慣で、こういった事情がないと思い切った買い物ができないといった事情もある。急な話で玉造温泉へ行くことになったのは、旅行社に勤める長女が、自分も含めて、とうの立った独身女性6人を集めて、縁結びの神様出雲大社ツアーを組んだのだが、あいにくメンバーに不都合ができて、その代役を押しつけたのだった。家内と次女夫婦の4人の旅行となったが、温泉なんて久しぶりで”湯女なんかいるのかなあ”と思うと胸がときめいた。
 午前7時3分うずしお号に乗り、高松でマリンライナーに乗り替え、岡山で明石から新幹線で来た娘夫婦と合流してスーパーやくもに乗車する。いよいよ列島縦断の旅である。娘がプンプンしている。「汽車なんて不効率じゃない。乗り換えだとか待ち合わせとか。車がずっと楽よ」 家内が 「何言ってるの、こうやってのんびり乗り換えていくのが旅でしょう。車だと運転は疲れるし渋滞するかもしれないし。第一交通事故にあったらどうするの。」 と会うなりやり合っている。
 私は、缶ビールを買ってきて娘婿に勧める。朝からビール飲めるなんて ”いいなぁ” と思うし、汽車の中のビールは格別な味なのだ。車窓からは、緑滴る野山に山藤が美しい。長く連なる棚田の田植えがのどかで新鮮に見えた。
 旅館に着いた。娘婿が 「豪華ですねぇ」 嬉しそうに笑って言った。ずらりと並んだ出迎えの着物姿の仲居は、よく見ると、どの顔もしわくちゃで、此処にも高齢化社会が押し寄せてるなぁと思った。
 案内の仲居は、エレベーターが降りてくると、真っ先に乗り込み我々を招き入れ、先に待っていた風呂帰りの紳士とその息子に 「乗られますか?」 と問うた。「そりゃ乗りますよ、先にボタンを押して待ってたんだから。」 と憮然とした顔で乗り込んできた。家内が小声で 「丁重なもてなしだけど、マニュアルどおりだから、周りが見えていないのよ、ハンバーガーショップの若い子と同じね。」 といたずらっぽく笑って言った。
 「1階に大浴場、最上階に展望露天風呂がございます。お召し物は5種類の浴衣の中から選べます。お気に召した柄をお選び下さい。お食事は部屋食となっております。後ほどお運びいたします。」 と仲居が言った。家内は陰で、「心付けって渡すものかしらね」 とか言って財布から千円札を入れたり出したりしている。
 風呂を浴び、山海の料理を味わった後、娘婿に外に出ないかと誘うが、家内が 「康君(娘婿)は疲れてるの、タイ式マッサージを予約してあるの。貴方は外が良いんでしょう。」 と言うので一人ぶらりと外に出た。近くに町営の ”玉造温泉ゆ〜ゆ〜館” があって、毎晩 ”安来節どじょうすくいショー” が上演されていると聞いていたので、そちらへ向かった。ゾロゾロと近くの旅館から詰めかけている。連休とあって大入り満員だったのだけれど運良く最前列の一席が空いていて、そこに座った。民謡と踊りが続き、メーンイベントのどじょうすくいとなった。一通り踊った後、舞台上でどじょうすくい教室を行うので、先着5名まで受付けると言う。すぐに4人は並んだが5人目がない。前に座っていたこともあり ”ええい、旅の恥はかきずてだ” と申し出た。舞台に上がり手ぬぐいをかぶり、5円玉を鼻穴に差し込み、尻の裾をはしょった。私だけズボン下を穿いていて笑いを呼んだ。プロの指導でユーモアたっぷりに観衆に踊って見せたが、何故か私の心は、冷めていた。他の4人は団体旅行の代表だとか、家族の代表で、○○さんガンバレーだの、やいやの贔屓の声援があるが、私にはなかった。”まあいいか、踊りゃな損損だ” と思った。

♪出雲名物荷物にゃならぬ、聞いてお帰り安来節♪

と汗をかきながら踊った。
 閉演して館を出ると、道に沿って流れる玉湯川には温泉が吹き出ていて、足湯を楽しんでいる人達がいる。無料だというので仲間に加わった。私がどじょうすくい修了証書を持っていて、皆から祝福された。しばらく足湯の人達と談笑した後、土産物屋などを覗きながら、一人で歩いた。こんな所一人歩きしていると、美人に声を掛けられるかもしれないなと思う。しかしなぁ、お金は浴衣の袂にしのばせてきたけど誘われても身体の方はオチメ街道まっしぐらだもんなぁと思ったけれど、そういった心配もなく旅館の玄関にたどり着いていた。
 翌朝娘がすごい剣幕で 「パパの鼾で寝られなかったじゃない、それに寝言も言うし、お陰で寝不足よ。」 と娘が言う。「バカ言うんじゃない、俺はお前の亭主の鼾で寝られなかったんだぞ。」 と私。「康君の鼾はパパと違うの。康君のは合間があるの。パパは一晩中切れ目無しじゃない。」 と言う。”何だと言うんだ旅費丸抱えで連れてきたのに、何の不満があると言うのだ” と思う。家内も言う 「旅館て嫌ね。布団の上げ降げや料理の出し下げで出たり入ったりされて。横になっていられやしない。プライバシーなんてあったもんじゃない。ホテルが良いわ。」 と抜かす。”何がプライバシーだ、これが温泉というものだ。旅館にはしっとりとした落ち着いた庭園もあったし、抹茶のサービスもあって 良かったじゃないか” と私は思った。この後出雲大社で敬虔なお祈りをした後、娘夫婦の住む兵庫県明石市の小さなマンションに向かったのだった。

(忠