ンプラント


「ン!インプラントだって」 と同僚が言う。

「止めた方がいいよ、感染症の確率が高く、国によっては法律で規制している国もあるそうだよ。」

といさめる。

しかしもう遅かった。

家内がどんどん話を進めて、150を超える症例を持つ、この道では有名な歯科医院に予約を入れていた。この歯科医院、私が医院に着くなりデジタル写真を撮り、レントゲンを撮り歯形をとって、有無を言わさぬスピードで、準備を進め、「痛くなくて、安全が確認されればインプラントの手術をしてもいいよ」 と言うつもりだったのに、為すすべもなく準備が整えられた。

インプラントとは、“人工歯根”のことで、歯の抜けた歯茎にチタン製のねじを植え込み、その上に人口歯をかぶせるもので、人の話によると、

「入れ歯と違い自分の歯のようになる」 と言う人もいれば、

「インプラントをしたがどうしても痛くて外してしまった人がいる」 とか、

「歯は脳に近く、歯根に異物を入れると脳障害を起こしやすいのだそうだ。」

と脅かすようなことを言う人もいる。

私はもう怖くて怖くて、歯科医院の面談室に入る前から震い上がっていた。

医者が私の歯形のモデルを指し示しながら

「紹介された方から聞いていませんか、手術は楽だとか技術は進歩しているとか。私から痛くないとかは言明できませんけれどね、まあやってみなさい心配ありません。」

そう言われても、私は大きな手術をした経験もないし、少しの痛みも辛抱できない性質だし、度胸もなければ思い切りも悪い。

しかも小心者なのだ。

「見積もりをいたしますね。貴方は右下の奥歯2本と左上の1本が抜けています。右下は奥歯ですから1本の歯に2本の根が付いています。分かりますね。ですから1本8万円の4本ですから8万掛ける4本で36万ですね。」

安いと思う。

しかし価格は問題にはしていない、値段でどうこうしようと言うのではない、手術が怖いだけだ。

「それとですね、」 と歯医者が続ける。

「上部構造(上からかぶせる歯)の価格が加わります。これが同じ一本8万円で先の4本と隣の歯のブリッジしますので5本ということになります。これに消費税がかかります。合計75万6千円です。上の歯を足すと総合計109万2千円になります。」

先生、そりゃぁその見積計算は間違っていると私は思う。

下の歯は2本なんだから上部構造の本数は、5本じゃなくて2本だと心の中で叫ぶ。

しかし手術を頼むのだ。ケチな文句を言って手術をぞんざいにされて痛かったらどうしようと思い、口をつぐんだ。

インプラントをしようというのは訳があった。

突然の歯痛から昨年の暮れから元旦に掛けて3度日曜歯科診療所に通った。結局右下の奥歯2本がなく、左の歯に負担が大きくなって歯を支える骨が痛んでいるとのことだった。入れ歯を作ったがブリッジしている金属が気持ち悪くて、口の中へ入れることすらできなかったのである。

手術の当日は緊張した。

まず麻酔だけれど少しの痛みはあったが、此の歯科医院は最新の細い針での麻酔なので思ったよりは痛くない。

「さあ始めます」 と医者が言った。

目はタオルで覆われ何も見えない。

ハンカチを強く握りしめる。

耳元で歯科衛生士とのやりとりが聞こえる。

「アレッ!」

と先生が言うだけで不安が募る。

電話が鳴ったりお客が来たり、他の先生が他の客の症状や治療方法を聞きに来たりする。

“もっと集中して専念してくれよな” と思う。高い金払ってるんだから。

グッグー・ジッジー・カチンカチンと耳元で不気味な音がする。しかし痛みは全く感じない。2時間あまりで終了した。

帰宅して麻酔の切れ具合や痛みの状況など医者から直接電話があった。普通3時間程度で麻酔が切れるというのに私は5時間もかかった。医者は、この間3回電話をくれた。恐縮した。

この機に全ての歯を、やり替えて噛み合わせをよくすると言って、院長から女医に担当が替わった。

徳島県は歯医者の中で女性の占める割合が全国1だそうだが、今までの経験では女性の方が乱暴のようだ。

「手荒なことはしないで下さい。」

と何時も釘を指しているのだが、効果は薄く。ガリ・ゴリ、ガリ・ゴリと頭に響く。まだしばらく治療は続くが、以前の金属の入れ歯を入れたときの不快感はない。

院長は、「インプラントは5年保証です、但し条件があります、4ヶ月に1度は定期検診を受けて下さい。」 と言う。

そうすればこの医院とは永遠のつき合いとなる。

今は3本だけれど、老いて歯がなくなったら全てインプラントでチタンの歯になるのだろうか。

歯茎が痩せてきたらやり替えるのであろうか。

不安はまた募るのである。



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