ハゲついて


「ホームレスにハゲはいないそうです。」 と同僚が切り出した。

「ハゲている人は、実直に働く人が多いんだそうです。」

2人のハゲが職場の近くの居酒屋で飲んでいる。

「でもそれって、ハゲの割合が低いということじゃないの。ハゲって10人に1人か2人ぐらいじゃないの?」

「いや、年代にもよりますが、男性のハゲ率は30%を超えているんじゃないでしょうか。」

談論ハゲしくなった。

「ハゲだって気にすること無いじゃないかと思うんですがね、やはり見栄えが悪い。先日友人と京都の天橋立で撮った写真の中に、逆さまの写真がありましてね。もろに頭が写っている。ゾっとしました。」

「そうそう、ニッセイビルの前の八百屋町交差点の横断歩道橋に設置されているエレベーター、シンドラー製なのだけれど天井に鏡があってね、頭のてっぺんを映しているんだ。実に無礼なエレベーターだ。」

「この頃便利になりましてネットで何でも手に入るんです。家内がネットで売っている枕の上に敷くだけで髪が生えてくると言う商品を見つけましてね、私に勧めるんです。6万円もするんですが、家内の方から勧めることはあまりないんで、寝てる間に髪が生えるんならと買ったんです。」

「それで効果は?」

「使用して、1年になりますがこの通りです。」 と同僚は頭を指し示した。

「詐欺だよな。発毛剤とか養毛剤だとか、もう何年も使っているが効果を実感したことがない。今朝もシンビジウムが原料の薬用発毛促進剤を振り、超ハードのムースで固めて出勤したんだ。」

「いっそ剃り上げたらどうでしょうか」

「そりゃダメだ、坊主は品がなくて実に暴力的だ」

「ロマンスグレーってかっこいいですよねぇ」

「そうなんだ、白髪じゃなく銀髪が良いんだ。銀髪は品格が出るんだ。少々手前味噌の話なんだが、僕の父は、ふさふさとした銀髪でね、父と歩いていると、その品の良さにすれ違う人の多くが、畏敬とも好奇ともつかぬ視線を送ってきたもんだ。何処へ行っても驚くほど丁重で温かな応対に迎えられるんだよ。だから僕は父と歩くのが好きだった。」

私は酔うと自慢話が出てしまう癖がある。

「カツラって手もありますよね。芸術家にカツラは多い。古くはあの偉大な音楽家べートーベン、バッハ。近代では”さだまさし”だってそう言うじゃありませんか。」

「ダメダメそりゃダメ、カツラをつけてると後ろから指さされ、ズラだズラだ、ズラがズレてる。なんて言われるのが関の山だ。」

「リーブ21やアデランスでは高性能な発毛技術やカツラが出ているようですが、今更って感じがしますもんね。」

「帽子ならどうでしょう、似合っている人いますよね。」

と同僚は興に乗って続ける。

「そう、顔が小さくなきゃ似合わないんだ。僕なんかは帽子をかぶって歩くとどうも照れる。あの大顔で似合わないのにカッコつけてると思われないかと周囲が気になる。それとハゲは初対面の人の前で帽子を脱ぐのが気になるんだ。相手のイメージを損ねるのではないかとね。」

「帽子を脱ぐと吹き出す無礼者がいました。」

酔いが進むにつれて2人は、「ハゲだからって、卑下することはないんだ。」 と脂ぎった頭をなでなで盛り上がり、お互いハゲまし合うのであった。

私の父方にハゲはおらず、母方の男兄弟はほとんどハゲていた。私はその両方の血を受け継いでおり40歳頃から頭が白くなり50歳からハゲた。

急速だった。

最近知り合った人は信じられないかも知れないけれど。若い頃にはパーマをあてていたことがあり、付き合っている彼女からは 「ジャズが流れてきそうな雰囲気」 と言われたこともある。

最近までハゲてはいても、美容院で毛染めと散髪をしてた。ところが家内が 「少ない髪に毛染めなんてモッタイナイじゃない。散髪だけにしなさいよ。5分もあれば毛染めできるんだから、私がするわよ。」 と言うので行きつけの美容院には行けなくなった。

そこで、安くて、早くて、格好良くしてくれると言うポッポ街の理髪店へ行った。その理容師、散髪が終わり整髪に入って落ち着き払って言った。

「どこら当たりから分けましょうか?それともオールバックにしますか?」

言葉が出なかった。

 


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