1.規約・規程の必要性
組合の基本的事項については、法律及び定款に規定されているが、組合を運営し、各種事業を実際に行っていくためには更に詳細な実施基準が必要となる。
例えば、総会(総代制を採用している場合は「総代会」も含む。以下同様。)開催のための基本的事項である招集権者、開催予告期間、議長の選任の方法などについては、法律及び定款に規程があるが、そのための事務的処理方法としての総会通知や代理人出席の場合の委任状の様式、提出された白紙委任状の取扱い方、議事録の作成様式及びその保存期間等については、定款等に規程はなく、そのための処理基準の設定が必要となる。
また、役員である理事、監事の選出、代表理事や専務理事等の役付理事の選出等についても、これらが総会や理事会において選挙制なり選任制によって選出されろことは定款に規定されているものの、選挙のための投票用紙の様式や記入の方法、記入の手順、又は選任のための役員候補者の選出手順についての処理基準、又は選任についてはやはり詳細な規約・規程の設定を待たなければならない。
このような組合の機関等についての種々の処理基準の設定と同時に組合事務局の設置運営についても規定しておくことが大切である。組合の組織の根幹をなす総会や理事会等についてはごく基本的事項についてだけではあるが、前述のとおり法律や定款に定めがあるため、たとえ実施のための手続き等について詳細を定めた規約がなどがなくても一応運営することに支障はないが、事務局の管理すなわち、事務局機構、職務の分担、職員の就業条件等については法律や定款に定めがないために、その設置なり、運営は専ら規約・規程に委ねられている。
また、組合運営の中心事項である事業の実施に関しても、規約の制定は重要である。定款には、組合が実施する事業の種類を規定しているが、これだけでは具体的に、どのような内容の事業が、どのような条件のもとに、どのような範囲で実施されるのかがほとんどわからず、具体的な事業別の利用規約が必要となってくる。
したがって、各種の共同事業実施のための事業利用規約は、組合員にとって最も必要な規約である。このように規約・規程は、組合を運営していくうえで必要欠くべからざるものであり、組合運営に携わる者は、組合を設立したならば直ちに必要な規約・規程を整備しなければならない。いってみれば、必要な規約・規程を設定することは、組合の理事・監事の善管注意義務(注1)や理事の忠実義務(注2)を果たすために不可欠なものといえるのである。したがって、理事は組合を運営するに当たって、まず当該組合にはどのような事項についてどのような規約・規程が必要とされるのかを十分に検討し、すみやかにその設定を行う必要がある。
組合における規約・規程は、組合の経営を合理的に推進するための基準を示すものであるから、何よりもまず組合の実態に適合したものでなければならない。設定された規約・規程の内容がただ形式に流れ、組合の実態から遊離したものであると、それは実際に遵守されないだけでなく、場合によっては、組合員あるいは事務局職員に無用の拘束を加えるものとして、むしろ有害なものとなってしまう恐れがある。
組合の根本規範たる定款は、法律そのものに直接根拠をもち、かつ、一定事項の記載が法律によって要求されていて、極めて規範的性格の強いものであるが、その規約・規程は、こうした定款の規定事項に比べてはるかに具体的な細部の事項にわたるものであり、事業の執行方法、機関の運営方法及びこれらの実務上の手続き等を規定するものであるから、組合運営上の具体的基準として実態そのものに即応することが強く要求されてくるものである。すなわち、定款は事実を上から一定の基準にあてはめようとする規範であるのに対し、規約・規程は、定款の規範の範囲内であくまでも事実を基礎としてそれを一定の方向にもっていこうとする基準といえよう。
なお、IT(情報技術)を活用した組織の運営を可能とするための法改正により、組合運営についても、電子メールなどの電磁的方法による総会における議決権行使、議決権行使の委任、臨時総会招集請求、理事会における理事の議決権行使等が可能となっており、これらを活用していくことを検討すべきであろう。
(注1)善管注意義務
理事又は監事は、委任の本旨に従い、善良なる管理者の注意を以て委任事務を処理する義務を負う。(中協法第42条の準用による商法第254条第3項が準用する民法第644条、中団法第5条の23第3項、第47条第2項)
(注2)忠実義務
理事は、法令及び定款の定め並びに総会の議決を遵守し組合の為忠実にその職務を遂行する義務を負う。(中協法第42条の準用による商法第254条ノ3、中団法第5条の23第3項、第47条第2項)